弁護士や司法書士の先生方がホームページで集客を行う際、基本となるのは「検索されているキーワードで上位表示を目指す」ことです。検索回数が多いキーワードは、それだけ市場の需要が大きいことを意味し、アクセスを確保しやすいのは間違いありません。
しかし、もし先生が「検索数は少ない、あるいは全く検索されていないが、戦略的にこの業務で集客したい」と考えている場合、どうすれば良いのでしょうか。
そんなニッチな需要があるのか、と思われるかもしれません。しかし、過去を振り返れば、まさにその典型例があります。「過払い金請求」です。
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「検索需要がない」は諦める理由にならない
今でこそ誰もが知る過払い金請求ですが、最高裁判決が出た当初は、「過払い金」という言葉も、払い過ぎた利息を取り戻せるという事実も、ほとんどの人が知りませんでした。当然、検索する人はいません。
もし、判決直後に完璧な過払い金専門サイトを立ち上げ、SEO対策をしても、検索する人がいなければアクセスはゼロのままです。
この状況を打破するために、当時の法律事務所はテレビCMやラジオ、看板広告などを駆使し、「過払い金というものがある」「あなたも対象かもしれない」という事実を、世の中に広く知らせる(認知させる)活動に莫大な投資を行いました。
つまり、検索されるのを待つのではなく、こちらから情報を届けて「検索キーワード」と「需要」そのものを創り出したのです。
2025年現在、法改正によって生まれる新しい法的サービス(例:共同親権に関する相談、フリーランス保護新法関連のトラブル)や、極めて専門的な企業法務など、同じような状況は今も存在します。こうした分野で先駆者となるためには、当時と同じく「認知」させる活動が不可欠です。
潜在層に「気づき」を与える“プッシュ型”デジタルマーケティング
ユーザーが自ら検索するキーワードを狙うSEOは、ニーズが明確な層にアプローチする「プル型(引き込む)」戦略です。
一方、検索需要がない分野で必要なのは、まだ自身の課題やその解決策に気づいていない「潜在層」に対して、こちらから情報を届けにいく「プッシュ型(押し出す)」の戦略です。
幸い、現代のデジタルマーケティングでは、かつてのテレビCMのように莫大な予算をかけずとも、オンラインでこのプッシュ型アプローチを効果的に行う手法が多数存在します。
【2025年版】オンラインで潜在層にアプローチする具体的な4つの手法
1. SNS広告(Facebook, X, LinkedInなど)
SNS広告の最大の強みは、キーワードではなく「人(ターゲット)」を狙えることです。年齢、地域、性別はもちろん、役職、勤務先、興味関心といった詳細な属性でターゲットを絞り込み、その人のタイムラインに直接広告を配信できます。
例えば、「都内の中小企業で経理を担当している40代」といった層に、新しい会計関連の法務サービスを告知することが可能です。比較的少額の予算からテストできるため、開業直後の事務所でも着手しやすい手法です。
2. ディスプレイ広告・動画広告(Google, YouTubeなど)
これは、ターゲット層が見ていそうなWebサイトの広告枠や、YouTube動画の再生前後などに、バナー画像や動画広告を表示する手法です。
まだ誰も知らない新しいサービスでも、その概要やメリットを視覚的に分かりやすく伝えることができます。例えば、特定の業界向けメディアに広告を出稿すれば、その業界が抱えるであろう法的な課題を喚起し、自社の新サービスへと誘導することが可能です。
3. コンテンツマーケティング(記事広告・オウンドメディア)
この手法は、直接的なサービス名で検索しない潜在層が、その「周辺の悩み」について検索した際の受け皿を作る戦略です。
例えば、「退職代行」という言葉が生まれる前なら、「会社 辞めたい 言い出せない」「上司 怖い 退職」といった悩みに寄り添う専門的なコラム記事を作成します。その記事で読者との信頼関係を築き、「実は、専門家が退職をサポートするこんな方法があります」と、新しいサービスへと繋げるのです。
これは広告費をかけ続ける必要がなく、事務所のウェブサイトに専門知識が蓄積されていくため、長期的な資産となります。
4. Webプレスリリース
新しい分野のサービスを開始した際、その社会的意義や新規性をニュースとしてまとめ、Webメディア向けのプレスリリース配信サービスを利用して発信する方法です。
メディア関係者の目に留まり、ニュース記事として取り上げられれば、広告費をかけずに第三者のお墨付きを得た形で、一気に認知を広げられる可能性があります。
新分野開拓における注意点と成功への鍵
これらのプッシュ型戦略は、潜在的な市場を開拓する上で非常に強力ですが、ターゲットがずれていると広告費を無駄にしてしまうリスクも伴います。
成功の鍵は、「どのような課題を抱えた、どんな人物に、このサービスを届けたいのか」というターゲット像(ペルソナ)を徹底的に明確にすることです。そして、必ず効果測定を行いながら、少しずつ改善を繰り返していくことが不可欠です。
新しい分野への挑戦は、慎重な判断が求められます。しかし、まだ誰もいない市場だからこそ、最初にポジションを確立できれば、その分野の第一人者として大きな先行者利益を得られる可能性も秘めているのです。








