GoogleやYahoo!の広告には、「リマーケティング(Google広告)」または「リターゲティング(Yahoo!広告)」と呼ばれる機能があります。
皆様も、「一度訪れた通販サイトの商品の広告が、その後、ニュースサイトやブログなど、全く関係ないサイトを見ていても表示され続ける」という経験はないでしょうか。
この、ユーザーを追跡して広告を表示させる手法は、その執拗さから「ストーカー広告」と揶揄されることもあります。Eコマースなどでは非常に効果的な手法ですが、この広告について士業の先生方からのお問い合わせが非常に増えています。
結論から申し上げます。プライバシー保護への意識がかつてなく高まっている現代において、弁護士・司法書士のホームページでリマーケティング広告をおすすめできるケースは、極めて稀です。それどころか、事務所の評判を著しく損なう危険な諸刃の剣と言えます。
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なぜ士業のホームページでは原則NGなのか?
その理由は、「相談者のプライバシーへの配慮」と「広告プラットフォームの厳格なポリシー」という2つの重大な側面にあります。
1. 相談者のプライバシーと心情への配慮という「倫理的」問題
まず、広告のポリシー以前の問題として、士業が扱う業務の多くは極めてデリケートです。
例えば、「夫に内緒で、共有のパソコンを使って離婚について調べていた」という方を想像してみてください。彼女が先生の事務所のホームページを閲覧した後、家族も見るニュースサイトや趣味のブログにまで「離婚問題、ご相談ください」という広告が表示され続けたらどうなるでしょうか。
これは、相談者の秘密を暴露しかねない、非常に危険な行為です。オンラインショップで検討していた洋服の広告が表示されるのとは、問題の次元が全く異なります。このような配慮に欠けた広告は、相談者に安心感を与えるどころか、深刻な不快感と不信感を植え付け、事務所のイメージに計り知れないダメージを与えます。
2. 広告ポリシーで厳しく制限される「デリケートなカテゴリ」
GoogleやYahoo!は、ユーザーのプライバシーを保護するため、特定のデリケートな情報に基づいた広告配信を厳しく禁止しています。弁護士や司法書士が扱う業務の多くは、まさにこの「デリケートなカテゴリ」に該当します。
【リマーケティングが禁止されている主な業務分野の例】
- 経済的困窮に関すること
- 具体例:債務整理、自己破産、個人再生など
- 個人的な人間関係の窮状に関すること
- 具体例:**離婚、男女問題、相続(特に死別を推認させるもの)**など
- 犯罪歴や嫌疑に関すること
- 具体例:刑事事件全般
- 虐待やトラウマ的出来事に関すること
- 具体例:DV(家庭内暴力)、ハラスメント被害、犯罪被害者支援など
- その他、個人の健康状態や性的指向など
これらの分野では、リマーケティングリストの作成自体がポリシー違反とみなされ、最悪の場合、広告アカウントが停止されるリスクもあります。
例外:リマーケティングが有効なケースとは?
では、士業はリマーケティングを一切利用できないのでしょうか。例外的に、活用を検討できるケースも存在します。それは、広告が表示されてもユーザーが不快に感じたり、プライバシーが侵害されたりする可能性が極めて低い、非個人的・非デリケートな分野です。
【活用を検討できる可能性のある分野】
- 企業法務・顧問契約: 企業の担当者が情報収集のために閲覧した場合。
- 知的財産関連: 商標登録や特許申請など、事業に関するもの。
- 専門家向けセミナーの告知: 一度セミナー案内ページを見た人へのリマインド。
これらのBtoB(対企業)サービスや、個人的な悩みに直結しない分野であれば、リマーケティングは有効なツールとなり得ます。しかし、その場合でも配信する頻度や期間には細心の注意が必要です。
広告は、事務所の存在を知らせるための強力な手段ですが、一歩間違えれば、築き上げてきた信頼を瞬時に破壊する凶器にもなり得ます。特にリマーケティング広告の利用については、「その広告は、本当にユーザーが求めているものか」という視点を常に持ち、慎重に判断することが不可欠です。







